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大阪地方裁判所 昭和46年(ワ)2677号 判決

原告

川口はるみ

右訴訟代理人

渡部繁太郎

外一名

被告

西谷繁重郎

右訴訟代理人

東垣内清

主文

1、原告の第一次請求を棄却する。

2、原告が、別紙物件目録記載の土地部分のうち、別紙添付図面中(イ)(ロ)(ハ)(ヘ)(イ)の各点を順次結ぶ範囲の土地(赤斜線をもつて表示する範囲の土地に相当する)に対し囲繞地通行権を有することを確認する。

3、被告は、右土地部分につき、原告の通行の妨害をしてはならず、また、右土地部分地上に建物その他の工作物を設置してはならない。

4、原告の第二次請求中、その余の請求を棄却する。

5、訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の負担とし、その一を被告の負担とする。

事実《省略》

理由

一まず原告の第一次請求原因について判断する。

1  地役権の承継取得の主張について判断する。

(一)  原告が原告土地およびその地上建物を所有して居住する者であり、被告が本件土地部分を含む本件土地を所有すること、本件土地はかつて被告の先代西谷卯之助の所有であつたが、昭和一四年一二月一二日被告が家督相続により、右土地の所有権を取得したものであること、原告土地は明治二七年一〇月八日以降訴外印藤アイの所有であつたが、大正三年三月一〇日同人より訴外印藤源三郎に、大正六年六月三日同人より訴外印藤市太郎に、昭和五年一一月一六日同人より訴外印藤秀太郎に、昭和一二年六月一七日同人より訴外印藤幹治に、昭和一五年三月一四日同人より訴外前田金吾に、昭和二〇年四月一三日同人より訴外前田宗利に、順次その所有権が移転し、原告は昭和二三年二月四日訴外前田宗利より売買によつて原告土地の所有権を取得したものであることは当事者間に争いがない。

(二)  しかるところ、原告は、明治二七年一〇月八日西谷卯之助と印藤アイとの間において、本件土地部分を承役地とし、原告土地を要役地とする通行地権設定契約が成立したことを前提として、原告に至るまでの間の原告土地の所有者による右通行地役権の承継取得を主張し、以下順次予備的に、大正六年六月三日西谷卯之助と印藤市太郎との間の、昭和一二年六月一七日西谷卯之助と印藤幹治との間の、昭和一五年三月一四日被告と前田金吾との間の、昭和二〇年四月一三日、被告と前田宗利との間の前同様の内容による通行地役権設定契約の成立を前提として、原告土地の所有権による本土地部分についての通行地役権の承継取得を主張するのであるが、その主張の各日時におけるその主張の各当事者間における通行地役権設定契約の成立についてはこれを肯認するに足る何らの証拠もないから、原告の主張は、いずれも、その余の点について判断するまでもなく失当というべきである。

(三)  さらに原告は、昭和二三年二月四日、被告との間に、前同様の通行地役権設定契約の成立があつた旨主張するのであるが、右主張の事実についても、これを肯認するに足る証拠はない。

2  そこで時効による通行地役権取得の主張について判断する。

およそ地役権は継続かつ表現のものに限り時効取得の対象となり得るものであり、右継続の要件としては、単に永年にわたつて一定の場所を通行して来たというだけでは足りず、承役地たるべき他人所有の土地のうえに通路が開設され、しかも、その通路の開設は、要役地となるべき土地の所有者によつてなされることを要すると解されるところ、原告土地の前所有者である前田金吾または原告が、本件土地部分を通路として開設したことを認めるに足る証拠はないから、その余の点について検討するまでもなく、右原告の主張も失当というべきである。

3  以上の次第で、本件土地部分に対する通行地役権の存在の確認、および、右地役権に基づく通行妨害の禁止を求める原告の第一次請求はいずれもその理由がない。

二すすんで、第二次請求原因について判断する。

1  移送前の裁判所の検証の結果によれば、原告土地は、その南側において被告所有の本件土地に、その東側および北側において第三者所有の土地に各隣接し、いずれも他人の土地に囲繞され、西側は猪名川の堤防に面し、直接公路に接していないことが認められ、いわゆる袋地にあたることが認められる。

2  しかるところ、被告は原告土地は、かつてその東側に隣接する池田市新町三丁目二六八四番の土地と合して一筆の土地をなし、同一人の所有に属していたが、右土地から原告土地が分割譲渡された結果袋地となつたものである旨主張し、成立の真正に争いのない甲第一号証、乙第一号証によれば、二六八四番の土地は、明治三二年三月二日豊能郡池田町一三一番地印藤市太郎が贈与によりその所有権を取得したものであり、二六八四番一の原告土地は明治二七年一〇月八日豊能池田町一三一番地印藤アイが贈与によりその所有権を取得したことが認められるのであるが、証人西谷好一の証言によつては、未だ被告主張の事実を肯認するに充分でなく、他にこれを認めるに足る証拠はないので、本件について民法二一三条二項の適用を考慮する余地は存しないといわなければならない。

3  そこで原告の本件土地部分に対する袋地通行権の主張について判断する。

移送前の検証、原告本人尋問の結果、証人西谷好一の証言(ただし後記不採用部分を除く)によれば、つぎの事実が認められる。

(イ)  被告所有の本件土地は、被告所有の建物敷地部分と本件土地部分からなり、本件土地部分は敷地部分の西側に接続し、両土地部分の間には高低があつて本件土地部分が低くその間は石垣によつて敷地部分と截然と区画されていること、

(ロ)  原告が、原告土地および地上建物を買受けた昭和二三年ころには、本件土地のうち猪名川堤防に接する西側部分に沿つて樹木が植栽され、子供のための砂場が存したほかは、地上に工作物等はなく、原告は右樹木と石垣との間の本件土地部分を通つて猪名川の堤防に下り、猪名川に架設された中橋に通ずる石段を利用し、あるいは被告の建物の敷地部分の南側に存する幅員約一メートルの通路(私道)を利用して公路に出ていたこと、

(ハ)  原告所有の建物の正面玄関は本件土地部分の北側に南面して所在し、恰も外形上本件土地部分の通行を前提としたような構造に建築され、右建物からの家財道具類の出し入れは、本件土地部分から堤防敷を利用して公路に出る以外に現状では通路は存しないこと、

(ニ)  被告は、本件土地部分地上に昭和三八年ころ木造車庫を設置したため、原告の通行可能な範囲は、右車庫と前記石垣との間に存する約六〇センチメートル幅に狭められ、その際原告は災害時等を理由に被告に対して苦情を申し出たが受け容れられず、止むなく右の約六〇センチメートルの間隔を利用して原告の建物に出入りしてたが、昭和四四年四月ころ被告が右木造車庫を軽量鉄骨製の車庫に設置すべく、地面をコンクリートで固め、鉄骨の支柱を立てる等の工事を始めたため、原告において工事中止の仮処分に及んだものであること、

(ホ)  本件土地部分のうち、猪名川の堤防に面する西側沿いには、原告所有建物の正面玄関に近接して、いちじくの木が植えられ、井戸が掘られているなどの事情で、堤防寄りを通行して原告方玄関に出入りすることは事実上困難であること、

以上の事実が認められる。右認定の事実によれば、本件土地部分は、原告が原告土地を利用するため必要であり、日常建物への出入り、引越し等の際の家財道具の出し入れのほか、火災等災害時の避難、消火活動を考慮すると、石垣の西側面より西側に1.2メートルの範囲の土地(別紙添付図面中(イ)(ロ)(ハ)(ヘ)(イ)の各点を結ぶ赤斜線で表示する範囲の土地)について、原告のため、袋地通行権を認めるのを相当とする。

なお被告は、原告が原告土地およびその地上建物の所有権を取得するまでは、従前の土地所有者は、東側隣地である二六八四番地の南側に沿つて公路に出入りしていた旨主張し、証人西谷好一の証言中右の主張にそう供述が存する。なるほど移送前の検証、原告本人尋問の結果によれば、原告建物の玄関口より本件建物の南側と、被告建物の敷地部分との間に存する四五センチメートルないし五七センチメートルの間隔を通つて隣地に至ることは可能であり、現在隣地との間に木戸が設けられていることが認められるのであるが、右の間隔は人間一人が漸く通行し得る程度のものであり、家財道具の出し入れはもとより日常生活に必要な荷物の出し入れ等にも支障があり、本件建物を建築する際、公路に通ずる通路として利用することを目的として右のような余地を残したものとは到底認め難く、かえつて前記認定のとおり、その地上建物の構造自体からは、外形上、本件土地部分の通行を前提として建築されていることが認められることに徴し、少くとも現在の地上建物が建築された時期以降、その居住者において、本件土地部分を通つて公路に出入りしていたものと推認するのを相当とし、原告の主張にそう証人西谷好一の証言はにわかに措信し難いというべきである。

三よつて、原告の第一次請求を失当として棄却し、第二次請求は本件土地部分のうち別紙添付図面中(イ)(ロ)(ハ)(ヘ)(イ)の各点を結ぶ赤斜線表示の範囲の土地について原告が被告に対し、囲繞地通行権の確認を求め、かつ右地上に通行の妨害となる建物その他の工作物を設置することの禁止を求める限度で正当として認容し、その余を失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を適用して主文のとおり判決する。

(名越昭彦)

【物件目録】

池田市新町三丁目二六八五番地の一

一、宅地 289.91平方メートル

右土地のうち、別紙添付図面(イ)(ロ)(ハ)(ホ)(ヘ)(イ)の各点を順次直線で結ぶ範囲の土地部分

(右土地部分は、その東側を原告所有の建物の庭地を囲む石垣の西側面(イ)(ロ)を結ぶ線により、その西側を猪名川堤防に面する(ホ)(ニ)を結ぶ線により、それぞれ画され、(イ)(ヘ)(ホ)の各点は、右石垣の北西角から、石垣の北側の線を東西に延長した線上に位置し、(ロ)(ハ)(ニ)の各点は、右石垣の南西角から、石垣の南側の線を東西に延長した線上に位置する。)

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